協会誌巻頭言

当協会について

ダイエットの先にあるもの

公益社団法人熊本県精神科協会 理事  荒木邦生

診療報酬と介護報酬のダブルの改定があった。我々にとっては重大な関心事であり,精神医療を含め今後の医療はどうなるのか,介護保険事業はどうなるのか,など様々な問題を含んでいた。結果はほぼ予想通り「薬価を含めるとマイナス改定」というものであり,財源がなく,超高齢化社会に突入する日本においては自然な結果であるという受け止め方をする人も多いと思う。しかし本当にそうなのであろうか。

私個人としては今後高齢者が増加することで医療・福祉に莫大なお金がかかり,その財源が足りないことは十分理解しているし,それに対し無駄なお金を投じることには反対である。しかし果たして医療や介護・福祉に無駄が多いのか?と問われるとそうは思っていない。たしかに薬の過剰投与が気になる時はあるが,長期に入院しておられる方々の入院期間が無駄であるとは思わないし,短期入院こそが美徳であるようにどんどん患者を押し出してゆく医療が正しいとは思えない。

精神科病床が7万床削減できるとかいうことが言われ出して久しい。退院率とか残存率などで精神科病院を縛ろうとする施策も持ち出されていたが,そのような手段を用いなくても精神科病床は毎年自然に減ってきている。

当院も約1年半後に着工を予定している病院新築計画に併せて,地域移行機能強化病棟を設けて,今年3月から病床を12床削減し,1年後はさらに12床削減することを考えている。理由はいろいろあるが最も大きな理由の一つは病床利用率が低下傾向であることである。努力してダイエットしたのではなく自然減と言える。

先代が努力して増やしてきたものを2代目が削ることに多少抵抗があった。しかし長年入院しておられた患者さんが徐々に減って,新しく入院される方の数が少なく短期間で退院され,職員の雇用も難しい現状においては仕方ないと判断した。普通ダイエットは,健康になりたいとか美しくなりたいなど,明確で明るい未来の目標に向かって努力するものであるが,当院の場合ダイエットと言えるのか?むしろ病気による体重の自然減で不健康の証なのではないか,などと色々考えてしまう。ダイエットの先にあるべき明確で明るい未来が見えないのである。なんとなくおぼろげに見えるのは数字に追われて無理して患者を受け入れて,無理して退院させるゆとりのない医療のような気がする。まるでそうしなければ生き残れないという不安を抱えた「セルフ」と書いてあるガソリンスタンドのオーナーか,求人しても人が来ず外国人労働者を雇っても自分の労働時間は減らず夜勤ばかりしているコンビニの店長のような姿である。私自身はそのような姿にはなりたくはない。しかしガソリンは「セルフ」のスタンドで入れており,東京ではよく夜に外国人店員のいるコンビニ店で買い物をしている。世間は必ずより安くより便利なところで消費をするのであり,サービスの質は二の次なのである。この上に「医師の働き方改革」で医師が17時に帰り院長がかわりに遅くまで働くようになれば,まさしくコンビニ店長と同じである。あとは「セブン」の店長になるか「デイリー」の店長になるかである。しかしこの選択はなかなか難しい。

ところで日本の未来はどうなるのであろう。第2次安倍政権になって,金融政策によって確かに以前よりもデフレが改善し,失業率も減って,一部の企業は儲けているようだが,決して世の中は明るくなっていない。むしろ将来に不安を抱えて生きている人の数は増えているように思える。人口は減少し若者は減り高齢者が増える。若者1人が何人の年寄りを背負うのかという問題ではなく,1人の元気な年寄りが何人の病弱な年寄りを背負うのかという問題になってくる。私は今後背負われる側になると思うが,体重が重いと背負い手が困るのでダイエットをしなければならない。しかし歳をとってから病弱な身体でのダイエットに明るい未来はあるのか?…あるはずがない。

 

 

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