協会誌巻頭言

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精神科医療と身体、連携について

公益社団法人熊本県精神科協会 理事 本島昭洋

心と体が分けられるものかわかりませんが,身体疾患と精神疾患との関連は,①単なる合併症のほかに,②身体疾患による器質性や症状性の精神疾患,③身体疾患に対する反応性の精神疾患・症状,④薬物などの影響,⑤精神疾患の経過や治療と関連した身体疾患,⑥精神的問題による身体疾患・症状など,多くの場合があります。

30年以上前に初めて精神科病院に勤めたときに,一番戸惑ったのは,身体面の管理です。救急医療や一般の身体医療の経験しかなかった私には,精神科病院の身体医療体制はとても不備に思えました。急変時の対応もそうですが,何十年も入院していながら,いや入院しているために,住民健診の対象にもならず,一度も内視鏡やエコーなどを受けたことがない方が多数おられました。結核治療も担当しましたが,ここで身体疾患をみていくのは本当に大変だと思いました。院長と交渉して,最低限の医療機器が導入できたのは幸いでした。現在では,長期在院患者の減少や他科受診による連携などで,診療状況はずいぶんよくなっていますが,精神科病院は閉鎖的,孤立しがちな空間です。患者の高齢化もあり,今後は身体疾患への対応に,より一層の工夫が必要です。

総合病院精神科や緩和ケア病棟に勤務した時には,身体疾患に伴う精神症状を多数みる機会がありました。せん妄が多いのですが,思わぬ器質疾患が隠れていることもありました。総合病院は,身体面の対応で困ったり迷ったりしたときに,すぐに検査や相談ができる体制にあり,とても助かりました。当時は,くまもとリエゾンカンファランスなどの研究会も活発な時期で,精神と身体との関係や身体科との連携に関して,大変勉強になったことを覚えています。総合病院精神科は減少傾向にありますが,大きな問題だと思います。先日の熊本精神神経学会で精神科救急における身体合併症対応についてのシンポジウムが行われました。個人の意見として,総合病院精神科が充実すると問題がかなり解消すると考えています。救急以外でも,総合病院での精神科医の役割はとても大きく,若い人にはぜひ取り組んでいただきたい。

精神科診療所での身体疾患への対応は,他の医療機関との連携となります。忙しい中,対応していただく関係者の方には大変感謝をしています。最近気になるのは,倦怠感や食欲不振,頭痛,動悸などで身体科を受診せずに,直接,精神科を受診される方が増えたことです。敷居を低くする目的で心療内科を標榜しているので仕方ないのですが,先に身体科でチェックを受けるべきと思うことはしばしばで,そのことはきちんと伝えるようにしています。一方で身体科を受診していても注意は必要です。不安症やうつ病の疑いで紹介された方が,進行がんや難病を罹患していたこともありました。慢性の痛み,身体疾患に伴う不安・抑うつ症状,精神疾患と身体疾患の合併などは心身両面からのアプローチが必要で,身体科としっかりと連携して治療を進めるべきものです。

認知症などの高齢者,周産期医療や児童虐待,引きこもりの問題,産業保健など,精神科に求められることは広がっています。単機能の診療所には限界がありますが,それを踏まえたうえで,協力できるものはしたいと考えます。COVID-19のパンデミック経験をして医療を取り巻く状況はずいぶん変化しましたが,今後も変わっていくと思います。今回は,身体科の医療機関との連携を中心に経験や意見を述べましたが,在宅や施設での医療を支えるのに,介護や看護,リハビリ,就労支援,教育,行政など様々なところとの連携は今まで以上に重要になると思われ,取り組むべき課題と考えます。

 

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