協会誌巻頭言

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コロナ禍における覚悟

公益社団法人熊本県精神科協会 副会長 宮本憲司朗

三密回避,ソーシャルディスタンスが社会の常態となり,社会的行事,冠婚葬祭,職場の懇親の場など,生活に潤いをもたらす社交の場が失われ,コロナ禍により人の心ばかりでなく,社会経済も
大きなダメージを受けています。

県内の移動で新幹線に乗ったときのことです。新幹線の車内放送で,マスクの着用は勿論,「車内での会話はお控え下さい,座席の反転はしないで下さい」とアナウンスがあっていました。駅のホームでは「県境を越えての移動は控えて下さい」とキャリーバックを持って待っている乗客もいるのに,テープによるアナウンスが流されていました。「県境を越えて」は流石に4月に入ったらなくなりました。そう思っていたら,ゴールデンウイークの前に東京では緊急事態宣言が発令され,連休明けには国分科会ステージ4(熊本県リスクレベル5警戒警報)にあっという間に上がりました。感染症と経済の狭間で翻弄されています。

ソーシャルディスタンスが叫ばれ始めて,診察室で感じるのは,コミュニケーション障害の方はリモートワーク,リモート講義での一方的なコミュニケーションで済み,非常に安心して生活されているようでした。昨年のことですが,一斉休校になると,不登校の児童の中で,元気になっている子供もいました。不登校ではない子供も,「学校に行って,同級生と会いたい,学習したい,でも三密を避けるため,登校できない」と,不登校の子と同じ「登校したくても,行けない」という理由で学校に行けなくなったからではないでしょうか。不登校の子供の心理が周りの子供と同等になり,元気になったのではないでしょうか。

しかし,これ程長くコロナ禍による先の見えない不安,新型コロナ感染への恐怖が続き,人とのコミュニケーション制限が続いてくると,対話による不安の共有,不安解消の機会が減少し,不安や恐怖へ孤独に対応しなければならなくなり,不安や恐怖が苛立ちや攻撃性に変化してきました。社会全体が,コロナ禍による不安や恐怖に包まれてしまっています。

最近,緩和ケアの講演を聴く機会がありました。コロナ禍で面会もままならず,家族が「お看取り」の場に立ち会えないので,終末期を在宅緩和ケア医療に切り替え,大勢の家族に見守られながらご自宅でご逝去された症例でした。コロナ禍を機に,在宅看取りが在宅緩和ケアまで拡大しているのかもしれません。医療にダイナミックな動きを社会から求められてきているのでしょうか。

コロナ禍に対応を追われている最中でも,医療改革が着々と進められ,むしろ加速されているような気がします。コロナ禍で頑張っている医療従事者に感謝する市民活動の話を聴くと,医療に対する強い風当たりが和らぐのではと,一瞬思ってしまいますが,コロナ禍による不安・苛立ちにより,社会からの医療に対する不満と要求はますます強くなっているような気もします。

2025年に向けて,「地域包括ケアシステム構築」の中の「地域医療構想」では,地域に必要な病床数を決め,病床削減につながるような病床機能分化が行われています。コロナ禍であっても,病床機能報告対象病院は病床の機能分化連携の推進のため,病床の機能を都道府県知事に報告しています。昨年の地域医療構想に関するワーキンググループ医療部会の中で,「感染症の拡大が突発的あるいは急速に起こり得ることを踏まえれば,医療施設の最適配置の実現あるいは地域医療構想の連携を進める必要性が,今回のコロナ禍で逆にさらに明らかになったとも言えるのではないか。」という地域医療構想に対する再評価の意見が述べられ,病床削減につながる「機能分化」が更に推進されてくると思われます。

「地域包括ケアシステムの構築」とは別に,精神障害を対象とした「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」いわゆる「にも包括」についても厚労省内で議論が進められています。
「にも」といわれると,「上から目線」とつい感じてしまいますが,精神科病床削減の話は地域医療構想の大分以前から突きつけられています。

「にも包括」の中の「精神科救急医療体制整備」では,「都道府県等が精神科病院等と連携しながら必要な体制整備に取り組むことが重要。」と謳っており,入院医療の提供では「身体合併症(新型コロナウイルス感染症を含む)への対応が可能」との機能分化を求めれられています。一方で「身体合併症対応を充実する観点から,都道府県等において精神科救急医療体制と一般の救急医療体制との連携の強化を図る。」とも述べています。

第4波の入り口を入ってしまったゴールデンウイーク前の時期では,第3波のピーク時の2倍の一日感染者数を想定してコロナ対応病床数を確保するような指示が都道府県に出ています。受け入れ病床の増床が急務であることは理解できますが,現実は非常に困難であると思います。

精神科医療機関入院患者で新型コロナ感染症が発生したら,「原則は感染症指定病院へ入院」となっていますが,受け入れ先病床が満床で転院ができない場合を覚悟して,自院内コロナ対応を準備をしておく必要があります。

社会の中で生活している病院のスタッフは自分や家族の感染予防対応を行い,院内でも感染予防対応に日々神経をすり減らしています。厳重な三密回避策により院内研修会,委員会,職員間ミーティングがかなり制約され,スタッフは不安・恐怖の共有・解消ができない状況で,ストレス限界域になんとか踏みとどまっています。

やっと始まったワクチン接種で少しは安心できるようになればと,ワクチン接種に希望を繋ぎたいと思っています。

註:「コロナ」は「COVID-19」として使用しました。

 

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