協会誌巻頭言

当協会について

熊精協との30年

公益社団法人熊本県精神科協会 副会長 犬飼邦明

数日前,熊精協会誌2021年1月号が届きました。開いてみますと多士済々,学術,エッセイ,文芸,会員の動静などバラエティーに富んだ誌面に改めて驚きました。原稿がなかなか集まらないという事務方のぼやきを耳にしたこともあり編集諸氏の苦労もよくわかりますが会員のポテンシャルは相当なものだと感心しました。本棚の奥にあった「熊精協会誌百号記念誌」を改めて手にしてみたところ,箱入り金文字の重厚な作りで題字は当時の熊精協会長の松本郁朗先生によるもの,1999年7月1日発行とありました。当時既に25年続いており,各号の目次を追ってみると錚々たる諸先輩の名前が連なり昭和から平成に至る激動の時代に反骨の精神を押し通した歴戦のつわものによる,まさに熊本の精神科医療の歴史そのものが綴られているようでした。

昭和30年代に創設された民間精神科病院は既に創立60年を越え,現存する創始者も数えるほどになっています。二代目三代目の理事長・院長が順調に育っているところもありますが,「長者三代」という言葉があるほどで一介の精神科医が院長,理事長の三役をこなしながら事業継承していくのは容易ではありません。医療法人経営はまさに試練の時期を迎えているともいえましょう。2019年2月熊本で「海精会」という日精協の若手経営者の組織の“大討論会”が開催され若手でもない私が引っ張り出されました。熊本地震の体験談もテーマの一つではありましたが,それよりも建て替え時期にさしかかっている民間精神科病院の次期経営者の諸君の苦悩と工夫と意気込みが感じ取られ「二代目もなかなかやるわい」と安堵したところでした。

精神科協会とはいえかつては理事長が院長を兼ねる場合が多く,院長会では診療報酬や行政監査などが話題の中心で情報収集の場でもあったわけです。最近は院長会で経営の話題が上りにくくなっているのは事実で,その分事務長会が横のつながりを強化している印象もあります。しかしやはり法人の代表者として経営責任を負う立場にある者は,従業員を路頭に迷わせず,患者家族の満足を追い求めながら,地域と共存できる安定した事業経営を続けることが責務であります。平時には医療法制,医事,人事,労務などの煩わしい業務を,非常時には危機管理上のトップマネジメントを負わされることになり大規模災害時などのBCP的視点,事業継承や内外環境の変化に応じた中長期の経営戦略を立てることも必要です。

「オール熊精協」という言葉を耳にしますが,その響きに違和感を持つ若い先生方もいるとは思います。実際に使われたのは平成10年頃の熊本県精神科二次救急輪番体制構築の時と平成23年頃の精神科救急情報センター開設の時で,最近は若干トーンダウンしていますが熊本地震の教訓をもとにした大規模災害時のネットワーク構築などで耳にしました。様々な価値観や多彩な病院機能が交錯する中でこの言葉は「お互いさま」という互助の精神を意味するものと私はとらえています。

2020年年初に始まったCOVID-19は,瞬く間に従来の習慣や価値観を蹂躙し様々な行動自粛や制限のなか,予定されていた催事や行事はほぼ中止・延期され,先の読めない,元に戻れない,減速はおろか下降の覚悟すら経営者に強いるような印象を持ちます。熊本地震をオール熊精協で乗り越えてきた私たち,顔の見える関係が続く限り諸先輩が営々と築かれてきた伝統と文化を継承していかなければならないと思います。

 

 

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