協会誌巻頭言

当協会について

熊本地震8年を迎えて

公益社団法人熊本県精神科協会 理事 松本武士

2016年4月14日の前震,16日の本震と未曾有の地震が起きて8年目を迎えようとしています。ここ最近では,トルコにおいても同様の地震が発生しており熊本地震とは比べ物にならないほどの死傷者が発生しており,瓦礫の中から1週間近く経過して生存者が発見されたりするニュースを見ると心痛極まりない思いであり,また地震を経験した者として避難所の様子や,復興に関しての政治,行政はどうなっているのかなど気にならざるを得ません。

熊本地震においては,当院の重点病棟だった碧天荘が大規模半壊の被害を受け,2病棟分の87床が機能不全となり,当時満床177床で運営,経営していた病床を残った2病棟,90床で運営せざるを得ない状態に瀕し,地震以降,1病棟48床の所に60人,2病棟42床の所に52人,デイケアを閉鎖し30床の病床を用意して復旧までの2年半,野戦病院化した状態であったにも関わらず,事故なく患者さん方にも大禍なく,また職員も離職なく復興に尽力してくれたことに,今でも敬意と感謝の念に堪えません。

復旧後は,177床から162床にスリムダウンし,2つあった精神科療養病棟を1つ残し,児童思春期病棟に転換し,結局のところ,元の4病棟体制に戻った結果になりましたが,復興計画の立案が成立するまでには侃侃諤諤とし色々と難航がありました。2004年に厚生労働省が35万床あった精神科病床を7万2千床削減すると発表したことや,団塊の世代が全て後期高齢者になり本格的な超少子高齢化に突入する2025年問題に向けて厚生労働省の考えは地域包括ケアシステムに集約されていっていることなどある中,復興計画においては時代の流れに沿い,残った2病棟だけに半減し,救急もしくは急性期病棟と児童思春期病棟だけとして,後は福祉の方に大きく舵取りする計画もありましたが,従来のあり方で最低15年は持つだろうと楽観的に決断し現在の形となっています。

地域包括ケアシステムの取り組みである在宅診療,地域リハビリテーションシステム,精神科領域では地域移行など,地震以前とは比べものにならないスピードで,完全に地域医療は病院から在宅やリハビリ,予防の方に傾いており,入院医療は必要最低限となり,医療は治すというより,その人が安定的に地域で暮らすためといった全人的医療へ重きが置かれ,そのために,医療方針は医師の指示待ちではなく色々な立場の方々とのケース会議で決定するようなチーム医療,またこれが更に成熟した形でのアドバンスドケアプランニング(ACP)が勧められています。

まだ2025年を迎えた訳ではありませんが猛スピードで医療の変遷を肌で実感させられており,今後の医療の変化に備えて行くことは大変な事ではありますが,政策や改革ばかりに振り回される事なく最後は良質な医療の提供しかないように思えている次第であります。


 

協会誌巻頭言のダウンロード

協会誌巻頭言をPDF形式で閲覧・ダウンロードできます。